「手を変え品を変えモーニング娘。新ユニット「タンポポ」の意味は如何に!?」
「…はよ打席は入れよ。」
「二人とも、私語は謹みなさい。」
球審の厳しい言葉がにわかにその場のテンションを上昇させる。注意など意にも介さず右バッターボックスへ入る筏君。前足の足場から固める其の仕草は、昨年メジャーで66本塁打を放ったソーサを真似たものだ。そして無言でその足元を見やる相手チーム捕手・鮫島丈太郎(18)は、恨めしそうにその動きが止るのを待った。
(あんな事、聞かなければ…)
そう。筏君の最初の打席、彼はうっかり聞いてしまったのだった。
『もしかしてそれ、ソーサの真似かい?』と。
「そうさ!」
カキーン!
打ちました!これは大きい!大きい!! センター一歩も動けませーん!!!
…
(筏君のこれまでの結果)
第一打席・1回表・二死無走者 バックスクリーンへの本塁打
第二打席・4回表・無死無走者 ライト前ヒット
第三打席・7回表・無死無走者 三振
試合は9回表、そしてこの場面、二死一塁で四度筏君に打席が回ってきた。
得点は2対1で近衛高校が1点リード。投手はこの回から二番手の森崎がマウンドに立っていた。右横手投げの技巧派投手だ。
『筏君、頑張って!』
バックネット裏からは自称南ちゃんこと本名鰐渕(鰐渕倫子[ワニブチリンコ](17)人間高校野球部元マネージャー。高梨治マンとの部室での不純異性交遊が発覚、マネージャー解任。現在停学中)が、筏君を密かに応援していた。内気な性格の彼女は筏君へ自分の想いを打ち明けることも出来ず、いつも陰から後ろ姿をそっと見つめるのが精一杯なのだった。(ちなみに彼女愛用のキティちゃん手帳に克明に記されている、筏君のここ16年間の行動記録は彼女の密かな自慢である)
タライク ツー!
球審の大きなコールが響き渡る。
初球・外角カーブ見逃し・ストライク
2球目・インハイ・ボール
3球目・外角低めシュート・ストライク
ひと振りもせずにカウントはあっと言う間に2−1となっていた。このカウント、筏君には非常に不利である。初めて対戦するピッチャーであるから次にどんな球種が来るかわからないからだ。
すぐにバッテリーのサインの交換が終わる。どうやら全て計算通りらしい。
ランナー一塁。ちらりと一塁を目で牽制した後、クイックモーションで投球動作に入る。スイングを始動する筏君。そしてボールはサイドスロー独特の、右打者にとってはまるで背中から飛んでくるかのような恐怖感を与える軌道に乗って向かってきた。
シンカー!?
その時筏君にははっきりと森崎投手の指先が見えていた。否、注意をして視線を向けていたわけではなかったのだが、極限まで高められた集中力が、視野に入っても本来映像として処理される筈のないそれを脳内の仮想空間に鮮明に描き出し、更に瞬時に球種までをも導き出したのだ。
カキーン!
打ちました!これは大きい!大きい!! ライト一歩も動けなーい!!!
逆転の2ランホームラーン!!!
…
(続く)