兄弟小人と父小人
ある晴れた昼下がり、二人の兄弟小人がなにやら話をしていました。
「なあ、にいちゃん。激動の一年も、あと二日やなあ」
その時弟小人が、かすかな殺意を抱いてしまったのはいうまでもありません。
「ごめんよう。ごめんよう」
しかし兄小人は容赦しませんでした。持っていた果物ナイフで弟小人の右脇腹を、下方約三十度の角度から一度目は空振り、そして二度目にしっかりと突き刺しました。
どく、どく、どく。血が溢れます。
「いたいよう。いたいよう」
血塗れになって泣きじゃくっている弟小人を、兄小人はただ黙って見つめているだけでした。
「いたい。いたい」
弟小人の声はだんだん小さくなっていき、そしてとうとう静かになってしまいました。
「少しやり過ぎたかな…」
兄小人がほんの少し後悔しているところへ、狩からようやく帰ってきた父小人がやってきました。
「父さん、どうしよう。へへ」
父小人はしばらくの間黙っていましたが、やがてゆっくりと二度、小さく頷きました。
「過ぎてしまったことは仕方がない。さあ、家に戻ろう」
父小人は兄小人の肩をぽん、とたたきました。兄小人はようやく落ち着いた様子で、うん、と明るく返事をしました。
「今日はご馳走だぞ」
兄小人の喜びの声は、夕暮れどきの山あいにいつまでもいつまでも響いていました。 |